激高仮面 ( げっこうかめん )

時々、激高して書く仮面ライター 

ペッパーミル

 毎回視聴率が40%を超えたという。

 視聴率と言えばたいていは個人視聴率ではなく世帯視聴率なので大まかな予想しかできないが、WBC日本代表の全7試合を国民の半数近くが視聴していたと言えるのかもしれない。これはすごいことだ。

 圧倒的人気の大谷、合宿初日から参加したダルビッシユ、剛速球の佐々木、大会最多打点の吉田、攻守好走笑顔のヌートバー、心をつかむ采配の栗山監督、その他どの選手・コーチも個性を発揮した活躍で観客・視聴者を魅了したからだろう。今までの代表も素晴らしいゲームをして2度の優勝という結果を残した力のあるチームだったが、今回はどこか違ってきていた。

 それは何だろう。

 言われるのはダルビッシュのチーム作りへの貢献。率先してコミュニケーションをとってまとまりのある流れを作ったそうだ。メジャーリーグの大投手が若手ピッチャー陣に「教える」のではなく、教え・教わるという対等な立場で「学びあう」という位置づけで接したことがとても大きかったのではないか。

 プライドを背負った先輩ではなく対等な関係を、ダルビッシュは求めていたのだと思う。多分、今までとは違うブルペンダッグアウトの雰囲気になっていただろう。それは、プレイ以外の選手の集まりがたびたび露出されていたのでうかがえる。こんなに普段の様子が伝えられたのも初めてだろう。

 栗山監督がヌートバーを選出したことも大きい。明るく人懐こい彼の人柄をチームに溶け込めると見通していたに違いない。初対面での「たっちゃんTシャツ」披露は見事な演出だ。一気に歓迎ムードと親近感が生まれたのだから。

 この発案者が監督(?)と知り驚いた。今までの代表監督では多分発想できない感覚だろう。そして、試合開始での初打席の初球をセンター前に積極的に打ったヌートバーの打席は、何かが始まるぞというワクワク感を皆に持たせる大きなものだった。

 今までと違うもう一つは、悲壮感がなかったこと。

 ランナーが出ればあのペッパーミル騒ぎで、「勝たねば」という思いを「ワクワク感」が上書きしていた。見ていてもそれが伝わって同じ気持ちになった。

 ダルビッシュの「好不調を気にしても仕方ない、人生の方が大事だから。楽しいことをして美味しいものを食べてリラックスしてほしい。野球ぐらいで落ち込む必要はない。負けたら日本に帰れないというマインドで行ってほしくない。気負う必要はない。」という言葉も大きかった。今までの代表選手がいう言葉とは違うと感じたのだ。

 この頃日本のスポーツが変わってきていると感じていた。

 古いスポーツ界の因習を見直す動きが出てきたこと、さらに新しい種目がオリンピックに採用されるようになったことの影響がある。後者は東京五輪でのサーフィン・スケートボード・スポーツクライミング、パリ五輪でのブレイクダンスなどだ。これらは監督・先輩の強い指導の下の部活から離れての活動が、今までと違う練習雰囲気を形作っている。

 ただしまだ古い因習は捨てきれないことが多い。強い上下関係、体罰の残存だ。野球では丸刈りという風習。今までスポーツ界で一番保守的かもと思っていた野球が、今回のWBCで「おやっ」と思わせたのだ。下から変わるのではなく、プロという上から変わっていくのだろうかと、今は興味津々楽しみにしている。