激高仮面 ( げっこうかめん )

時々、激高して書く仮面ライター 

子どもは文化を食べて育つ

 音楽を教えながら子どもたちへのボランティア活動を地道に約30年続けているTさんからメールが届きました。

『コロナが落ち着いたからといって平和にはならず、争いが続いていて、人の進歩のなさに悲しい気持ちになります。音楽やスポーツは、どんな役に立つのか?と思いつつ、日々過ごしています。』

 そして、音楽やスポーツ、言い換えれば文化について私は考えています。Tさんからのこの真正面からの問いかけは、教職についていた時からの私の思考のテーマと重なっているからです。

 教員は子どもたちに国語や算数、音楽や体育、図工等々を教えます。学校で教えるどの教科も、長い歴史の中でたくさんの人々の思考(思想)や感情(思い)が込められ、創造され育て深めてられてきた“文化”です。教師の大切な役割の一つは、この文化を子どもたちに継承することです。その学習の中で子どもたちに『わかる力、できる力、他者(友達)と分かち合える力』をつけたいと考えていました。さらに、継承させるだけでなく、文化を〝継承し発展〟させていく子どもたちを育てたいと考えていました。

 当時、保護者会で私は「子どもは文化を食べて育っていく」と話していました。文化に接し楽しみ吸収することで、人として育っていくのだと考えていたからです。それもテレビなどのスクリーンを通さずに、生で文化に接することが大事だと話しました。それ以後も、私は“文化”について問い続けいつも脳裏にありました。

 Tさんは、子どもたちを対象にした音楽(歌・楽器)と台詞で楽しいお話を進めるミュージックパネルのグループを作って活動しています。保育園、小学校、障害(碍)者の施設等々で毎月のように公演をしています。私がこのグループに参加させていただいてから10数年になりました。聴いてくれる子どもたちは、物語や音楽やパネルシアターの楽しさに触れて、どんなにか人間的な温かさを知り、それがとても楽しいなと感じている・・そのことを実感しました。そんな子どもたちがたくさん育つことが、争いのない世界を願う人を育てることに繋がるんだと、私は今、思っています。

 微力な一人の、あるいは人知れぬ人々のこのような活動は、とてもとても小さな力にしかならないのかもしれませんが、実は子どもたちの心に優しさとか誠実さとか共に生きる楽しさとか、そんな種を蒔いているのではないでしょうか。実はこの種がとても大きな力になる日が来ると信じています。

 昨年3月にウクライナの戦時下で、残った団員によるオーケストラ演奏がキーウで行われたニュースを見た時、音楽家の心に衝撃を受けました。戦時下の民衆の気持ちを励まし力付ける、これは音楽の力なのですね。不要不急とは思いませんでした。

 私が応援している若い和太鼓集団がいます。プロになり国内外で活動するようになった頃、東日本大震災がありました。彼らは被災地へ行き太鼓を叩きました。その響きに元気をもらう人が大勢いました。音楽文化ってすごいと思いました。その彼等もコロナ下で“不要不急”と叫ばれ収入が激減しました。「俺たちって必要ないのか?」とその時辛そうに彼等は呟きました。いえ、そんなことはないはずです。太鼓の音を被災者の心に響かせたことは彼らにしかできなかったことなのですから。

 私のYoutubeに「歌っていて平和が来るかよ」と言うコメントが来ました。でも、今自分ができる地道なひと言、一活動を失ってはいけないと私は思います。

 妻が最近こんなことを言いました、「今年は手術を2回もしたけれど、その間バレーボール・ワールドカップや大谷選手の活躍を見ていたから元気でいられた」と。ナンダー、オレじゃなかったのかー!(笑) 確かにスポーツを見て、日常を忘れて興奮したり、歓喜したりってありますよね。私なんか、バスケ・ワールドカップの日本代表の試合でテンションは上がりっぱなしでしたから。

 音楽やスポーツだけではなくどの文化にも、文化でしか与えられない力があると思っています。人間は文化を創りましたが、その文化が人間を作る、そんな気がします。豊かな人間性は豊かな文化から。だから、子どもは文化を食べて育つ、と私は言いたいのです。