激高仮面 ( げっこうかめん )

時々、激高して書く仮面ライター 

国枝慎吾,フェデラー,セリーナ・ウィリアムスの引退の言葉

「最後まで世界1位のままでの引退は、カッコつけすぎと言われるかもしれませんが、許してください。」(2023年1月) 

 こう言って国枝慎吾選手が引退を表明した。国枝選手なら誰でもご存じだろう、テニスのグランドスラム(全豪・全仏・全米オープンウィンブルドン)車いす部門でシングルス・ダブルス計50回の男子歴代最多優勝、生涯グランドスラム達成、パラリンピック5大会連続出場と金メダル4個獲得など圧倒的な記録を残している。

 ほんの少し前まではパラスポーツは、記事の扱いがスポーツ面ではなく社会面が多く、健常者のスポーツとは違う目で見られていた。そんな日本での扱いに変化を生じさせていったのは彼だったと思う。2009年25歳の時に、当時は考えられなかった障害者スポーツでのプロ転向をしたのは、パラスポーツの普及・発展という意図もあっただろう。

 車いすテニスは2バウンドまでの返球で良いのだが、彼は素早いチェアワークにより1バウンドで返球するなど、その技術と体力で目を見張るゲームを続けて大活躍した。彼が道を切り開き、(まだまだ十分ではないが)パラスポーツの環境や文化を変え、人々に(パラ)スポーツの楽しさと習慣を与え、多くのアスリート、プロスポーツ選手も生んでいった。

 ある時、記者がロジャー・フェデラーに「日本に何故あなたのような選手が出ないのか」と尋ねると、「日本にはシンゴ(国枝)がいるじゃないか」と答えたというエピソードが伝わっている。

 そのフェデラーも2022年9月に引退表明した。ナダルジョコビッチ、マリーとともにBIG4と呼ばれ、グランドスラム優勝20勝、237週連続世界ランキング1位等ここに書ききれないほどの記録を残しただけでなく、コート内外の紳士と言われ惜しまれての引退だ。その引退セレモニーでこんな言葉を語った。

 「みんなここにいる、息子も娘も。妻はとても協力的だった。妻はずっと前に僕をやめさせられたが、そうしなかった。彼女は僕を前進させ続け、プレーするのを許してくれた。素晴らしいことだ。ありがとう。これで完全に終わるわけではない。人生は続いていく。僕は健康で、幸せで、すべてが素晴らしい。」

 同じ2022年に、女子ではセリーナ・ウィリアムスが引退を“示唆”している。姉ビーナスとともにパワーテニスを持ち込み、シングルス・ダブルスでキャリアグランドスラムを達成した唯一の選手である。生涯獲得賞金は8000万ドル、史上最強選手と言われている。彼女が引退を示唆した時の言葉は男女の差だった。

 「私はテニスと家族のどちらかを選ぶなんてしたくなかった。フェアじゃないと思う。もし、私が男ならこんなことは書いていない。」(米ファッション誌VOGUE) 

 家庭のことを妻にまかせてプレーに専念する男性との差についての言及である。フェデラーには悪いのだが、どうしても前述の彼の言葉も思い出してしまう。これだけ偉大なキャリアを持つ選手セリーナでも、男女差を日々感じてのプレーが続いているという事実を突きつけたのだ。